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第12話 滲む感情が言葉にならない

last update publish date: 2026-05-06 07:05:59

「失礼します。伊集院です」

「どうぞ、お入りください」

 真っ先に「色気のある声だな」と思ってしまったのは、僕が緊張しているからだろうか。

 教頭先生に呼び出された僕は、来賓対応用の応接室の扉に手をかけた。

 勤務も3年目となると、来賓の格が何となくわかるようになってくる。

 教頭先生が伝言役。

 校内でも校長室以上に内装にこだわった応接室。

 このふたつで、室内にいるのがただの保護者でないことはほぼ確実だった。

 そして今、威厳と冷たさと色気を含んだ声を聞いて、僕は部屋の中で待つ人物を察した。

「お忙しいところ、呼び立ててしまい申し訳ありません、伊集院先生。当校の理事をしております、一条怜央と申します」

「ご高名はかねがね伺っております。伊集院です。名刺がなく、失礼いたします」

 僕は慎重に言葉を選びながら、深く頭を下げた。

 一条怜央。黎明館学園の理事のひとりで、大口のスポンサー。

 そして、この学園の最高権力者
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    「失礼します。伊集院です」「どうぞ、お入りください」 真っ先に「色気のある声だな」と思ってしまったのは、僕が緊張しているからだろうか。 教頭先生に呼び出された僕は、来賓対応用の応接室の扉に手をかけた。 勤務も3年目となると、来賓の格が何となくわかるようになってくる。 教頭先生が伝言役。 校内でも校長室以上に内装にこだわった応接室。 このふたつで、室内にいるのがただの保護者でないことはほぼ確実だった。 そして今、威厳と冷たさと色気を含んだ声を聞いて、僕は部屋の中で待つ人物を察した。「お忙しいところ、呼び立ててしまい申し訳ありません、伊集院先生。当校の理事をしております、一条怜央と申します」「ご高名はかねがね伺っております。伊集院です。名刺がなく、失礼いたします」 僕は慎重に言葉を選びながら、深く頭を下げた。 一条怜央。黎明館学園の理事のひとりで、大口のスポンサー。 そして、この学園の最高権力者である。(そんな御大が、どうして僕なんか。何か気に障るようなことをしただろうか) 内心で冷や汗をかきながら、促されるままソファに座る。 一条さんは、僕が座るのを見届けてから対面に腰を下ろし、ゆったりとした仕草で足を組んだ。感心するほど絵になった。一瞬にして、自分がドラマの脇役になったような錯覚に陥る。あるいは、捕らえられた獲物のような。 (普通、日本人がこのポーズを取ると尊大に見えるものだけれど……これは踏んだ場数の違いだろうなあ) そんな怪物が、しがないいち教師に何の用だろうか。ぴしり、ぴしりと、僕のモットーにヒビが広がっていくのを感じた。「新1年生が入学してしばらく経ちましたね。今日は教頭先生たっての願いで、子どもたちに講演を頼まれまして」「それで我が校に」「ええ。私はまだまだ若輩ですが、未来ある若者にちょっとしたエピソードは伝えられると思っています。まあ、同様の講演をここ数年続けているので、慣れてしまったと言えばそれまでですが」

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